【だんらんストーリー】結構なおてまえで
要介護4でご高齢の胃瘻のおばあちゃんがいらっしゃいました。Aさんと言います。
Aさんは、若い頃から多趣味な方で、いろいろな習い事をされていました。お稽古に通われて、先生から習うこともあれば、独学でしていたことも大きく、博識でいらしたので、訪問の度にさまざまなことを教えてくれました。
お互いの趣味を話す
ある日、私の趣味の話になりました。私は着物が好きで、独学ですが着付けをやっています。丁度知人が茶道の市販を持っているため、習えることになりました。そのため、今度正式にお茶と着付けを習おうと思っているんです…そんな話をしたのです。
するとさすがAさん。独学でお茶をされていたとのこと。習っていたわけではないけれど、お抹茶の味が好きだったから、知人に簡単に教わり、見よう見まねでやっていたというのです。
お抹茶の味が好き
こんな話をしていたわけですが、Aさんは胃瘻です。嚥下障害のある方で、3食の食事は注入。いわゆる楽しみレベルの摂食が行える方でした。ちなみに水分にはトロミが必要なレベルです。
お抹茶の味が好きとは仰っても、今の嚥下能力ではお抹茶をそのまま飲んでいただくのは難しい…。茶道のお茶の場合は、抹茶を点てるところからが楽しみですし、泡のある部分と無い部分のバランスを「景色」と言って、視覚的に楽しむものでもあります。そのためせっかく点てたお抹茶に、後からトロミ剤を入れてしまうのも、お茶の良さが損なわれます。
飲み方の姿勢を考えても、抹茶椀に口をつけ、首をやや後ろに倒すため、誤嚥のリスクが高いのです。
けれどAさんとお話しする中で、「とりあえず飲みたいね」ということは共有できたので、方法はまた考えようと話し、その日の訪問は終わりました。
とろみ抹茶を点てる!?
ところが、翌週訪問へ行くと、Aさんがおもむろに食器棚から茶道セットを持ってこられました。なんとお茶点てる気満々!!
どうしよう!?
・・・少し驚いたのも事実ですが、ここまであるんだから、よしやろう!ということに。
抹茶の粉を、茶器に入れ、そこにトロミ剤も入れてみました。お湯を注ぎ、茶筅で一気に泡だてました。
そしてなんと、綺麗なお抹茶が・・・できない!!(°▽°)
大量のダマができ、そのダマがあろうことか茶筅にへばりつき、新品の茶筅が台無しに!!
なんてことーーー
2人でそれはそれは大笑い。
やっぱダメだったかぁと。
そのあと茶筅を丁寧に洗い、私の方でお抹茶を点てさせていただき(私はほぼ素人ですが)、そこにトロミをつけて飲んでいただきました。
実験的にやったことが楽しかったようで「結構なお点前で」とのお言葉をいただけました。
一緒に語ろう、したいこと
食事への考えは千差万別。希望も千差万別。食べたい想いと、食べさせたい想い。時には食べさせることが不安だと思う気持ちもあります。料理の種類だって数えきれないほどあり、飲み込みの力だって人それぞれで、毎回それらをマッチングするのは本当に難しいものです。そのため、訪問での食事指導は、失敗ばかりです。けれど「飲みたい」にやっぱり応えてみたい。そんな想いがきちんとどいた支援ができたことは、私にとって誇りです。
だからこそどんな利用者さんにも、気持ちを聞いて、いろんなことを試します。それがご利用者さんの楽しみや、明日は何をしよう?というチャレンジの気持ちにつながれば、それだけで本当はいいのかもしれません。
だから一緒に話しましょう。やりたいことを。たくさん。
【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。
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