【施設指導】「通所でお昼ごはんだけでも食べてきて!」と言われても…
私がアドバイザーとして、食事指導に入っている施設が数か所あるのですが、その多くが障害者の通所施設です。
今日は施設への食事介入時の悩みを徒然なるままに・・・
私の施設指導
施設指導のほとんどが、昼食時間にお邪魔して、食事介助をしているスタッフさんに対して、食事介助時の相談をうけたり、食事形態の確認をしたりをしています。中には、経管栄養のため、食事介助指導が不要となる方や、逆に摂食・嚥下能力には問題がなく食事指導を必要としない方もいらっしゃいます。その場合、前者の方には全身状態の把握や、栄養・水分等のIN-OUT量の確認をしたり、口腔ケアなどの指導を行うことが多くなります。後者については、作業活動等への提案を行うようにしています。いわゆる何でも屋ですね。
経口栄養と経管栄養のバランス
施設の方針にもよりますが、経管栄養の方は、基本的には経口摂取をしない前提の場合が多いものです。経口摂取はしていたとしても、あくまで数口のお楽しみレベルであり、メインは経管栄養の注入で、ということがほとんどです。
何らかの原因で経口摂取が難しくなり、経管栄養を選択されているため、当たり前ではあります。
しかし、中には重度の嚥下障害があるにも関わらず、経管栄養は使用しておらず、経口摂取のみの方もいらっしゃいます。このような、嚥下能力に重度の障害が認められる場合は、食事介助ってどうしたらいいのでしょうか?
「食べたい本人」と「食べさせたい家族」との狭間で
経管栄養があれば、食事量が不十分でも栄養や水分を必要量確保することはできます。しかし、経管栄養がない場合、口から摂らなければ脱水や低栄養になります。
ですから通所の利用者さんで、こういった方がいらした場合、食事介助には非常に慎重になります。
食べなければ空腹ですから、本人さんは食べたい。もちろん美味しいものが食べたい。そして、嚥下障害のある場合は、ご自宅での食事も進みにくいのですから、ご家族としては通所で少しでも栄養を摂ってきてほしい・・・そう思われることでしょう。
そういう「食べたい本人」「食べてほしい家族」の狭間に立つと、施設の方はますます食事介助に難渋されます。「食べさせたい」けど「誤嚥させたらどうしよう・・・」という気持ちとのぶつかり合いですね。
通所での「安全」
私が指導に入る通所施設の場合、指導時に優先することはやはり「安全を第一に考える」と言う視点です。安全にもいろいろな意味があるのですが、利用者さん自身が「誤嚥・窒息」しないと言う、『利用者さんの安全』があります。
これは当然のことなのですが、もうひとつ忘れてはいけない視点があります。それは『スタッフの安全』です。
万が一誤嚥をさせた場合、利用者さん自身も命に関わりますが、その介助を行なったスタッフさんも心に大きな傷を負います。ですから、スタッフさんの精神的な負担・不安を払拭できるような支援が必要となるのです。
重度嚥下障害者の食事介助
その上で、上述のように、重度嚥下障害はあるけれど、口から食べる以外の手立てがない利用者さんの場合はどうしたらいいでしょうか?
私は通所と言う特性上「安全と思えない段階で中止」を助言します。たとえ、利用者さん本人が食べたがったとしても、誤嚥のリスクが高いと判断されれば、中止します。
一見当たり前のようですが、意外とこれが難しいのです。
食事介助中って、コミュニケーションをとりながら食べますよね。すると熱心なスタッフさんであればあるほど、利用者さんが食べたがっているということも伝わるんですね。そうすると「もう一口くらい大丈夫だよね?」という思いが湧いてきたりするのです。
食べさせることが悪いんではないのです。安全との天秤をかける必要があるのです。
家族と対話しよう
どうしても、一定量以上を食べさせることは、施設ではできないと判断された場合、それは家族との対話が必要であることを意味します。これ以上は施設では無理です。けれど「栄養量・水分量はどれくらい足りません」ということをお伝えしましょう。そして、どのようにしてその不足を補うかを考えましょう。
最近では栄養相談も病院や訪問でもできる場所が増えてきました。不足している栄養・水分等の計算をお願いし、どうやって効率的に・安全に摂取していくのかを話し合っていく必要性はあります。
通所では、誤嚥のリスクを考慮すると、必要栄養量を摂らせることが難しい。でしたら、それを解決する方法を一緒に考える。
いろんな方法があります。
それを仲介に入ることで解決していくのも私の仕事です。
家族だって、食べられないことへの不安はたくさんあります。食べさせることへの不安もきっとあります。それを共有した上での解決。そのステップを一緒に踏んでいくことが、通所施設への指導の醍醐味であったりもするのです。
【長岡菜都子(だんらんコーディネーター)】
リハビリテーション専門職である言語聴覚士の国家資格を所有。病院勤務を経て、訪問看護ステーションに入職。以後12年間で、訪問リハビリテーションを学ぶ。対象は乳幼児から高齢者まで幅広く、病気や障害を抱えながらも、にいかにして家族とともに充実した温かい生活を送れるかにこだわり、支援している。
現在は病気や障害を抱える当事者に対し、『個別』ではなく、家庭や関係施設へ『戸別』に訪問し、主に「はなすこと」「たべること」に関する、赤ちゃんの育み支援、こどもの学び支援、成人・高齢者の生活支援を行っている。
その他、医療・福祉・介護・教育施設等への外部講師等も行い、「はなすこと」「たべること」のバリアフリーを目指し活動中。
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